四国経済産業局 編「四国ものづくり名人2009」掲載記事

分割プレス曲げ加工による舶用ボイラの製造プロセスの低コスト化

 舶用ボイラは、種類や大きさごとに金型が必要で、その分コストも高かった。コストを低減させたのが分割プレス曲げ加工法だ。一般の金型成形と違って、構成部品である半球形火炉は冷間プレス加工で半球型に、炉筒は熱間プレスで裾広がりに加工できる。その結果、22㎜の厚鋼板で加工による厚み減少が2㎜以内という構成部品を、低コストで効率よく制作できる。年間製造ボイラ数100缶程度の中小企業にとって、夢のような製造技術が現実のものとなった。同社のボイラの銘板には創業時の社名、羽田鉄工所の名にちなみ「Hada Boiler」の文字が刻まれている。

トータスエンジニアリング株式会社

 大正8年(1919年)4月、羽田鉄工所として愛媛県で創業。船舶用ボイラの熱交換率を高め、小型化する技術を始め多機能ボイラやエコノマイザなどへと技術は着実に進化。安全性・耐久性、高い経済性を備えた舶用ボイラは多くの顧客の支持を得ている。陸用機器としては、ピタロックドア式開閉装置付各種加工プラント機器類や高機能の多種類のボイラなどを販売する一方、企画・設計・製作・据付試運転・メンテナンスについても充実したサービスを行っている。

半球形火炉の冷間プレス曲げ

ボイラごとの金型を不要にした分割プレス曲げ工法が自社製造と製造工程の短縮も実現

 中小の舶用ボイラメーカーが、ボイラの種類や大きさに応じて金型を設備投資するのは不可能だ。
 同社では従来、苦肉の策として、スタッフ3名の手作業で5分割した鋼板を曲げすぎや曲げ不足に悩まされながらもプレス曲げによって組み立て、溶接。その分コストも高くついていた。また、ボイラの鏡板・冠板の製作では、円形の鋼板端をR曲げするために加熱するが、冷却時の収縮でできる20~30㎜の凸状の歪みを0~1㎜に修正するために多くの時間と人員をとられていた。
 こうした製造過程の課題を解消するために開発されたのが分割プレス曲げ加工だ。半球形火炉を制作する場合、通常の成形加工では22㎜厚の鋼板で約6㎜の減肉が発生するが、分割プレスでは2㎜以内に抑制。さらに、プレス押しの位置や間隔、強さなど、減肉を最少にする独自の加工技術を開発し、従来の5分割に替えて2分割による製造を実現した。その結果、大幅な製造時間短縮とコスト削減が実現した。また、プレス上型・下型の形状や大きさに工夫を凝らすことによって、3組の金型で1,000~2,420Φ㎜の半球形火炉の製作が可能になった。
 鏡板や冠板のR曲げは、外スライドローラによるスライド直前に当板を挟み込むことで、収縮による凸状の歪みについても逆曲げをかけたうえで平面まで押し戻す工法を開発することによって課題は解消されることになった。

熱間プレスで炉筒を拡げる

コスト削減に大きく寄与する新たな加工技術を応用し 船用ボイラから陸上機器へ

 新たに開発した加工技術は、製造工程の効率化や納期短縮だけでなく、資材の有効利用や省エネ、作業環境の改善などにもつながっている。
 例えば、深絞りの半球形火炉の製造において、鋼板を5分割から2分割による分割プレス曲げ冷間加工が可能になった結果、従来約50%あった残材が20%程度まで下がった。
 さらに、金型による大型プレス機と比べて小型であるがゆえに、電力消費量も少なくてすむ。
 また、作業的にも高速プレス作業ではないため、騒音や粉塵の飛散などの心配もなく、作業環境の改善にも大きく寄与しているという。
 ボイラ製造は、半球形火炉や鏡板、冠板の製作を専門業者に依頼し、自社で製缶や溶接などを行うのが一般的だ。そのため部材の輸送や公的機関による検査に時間をとられ、効率的な工程を組むのが困難で費用も莫大だった。
 分割プレス曲げ加工の技術は、それらの課題を一挙に解消するものだった。この工法を使えば、自社内で全ての作業をこなすことが可能になるだけでなく、製造工程の効率化が図られ従来に比べて7~14日の納期短縮が実現。その結果、公的機関による定期的な圧力検査の利便性が確保され、その一方で部材の輸送や工程ロス、製造認可工場であるがゆえの問題などから解放されることになった。

約80年前に製造したボイラがまだ稼働している。その事実が日本一の証

「一般的に船は4~5隻をシリーズで造ることが多いので、シリーズ最初の船で採用されないと後の受注は期待できないんです」と、営業の重要性を強調する。営業につながるメンテナンスについても、「壊れたら修理のため、飛行機で海外にも行かないといけない」ということで、社員全員がパスポートを準備しているという。
 同社では、令和3年(2021年)までに舶用ボイラを累計4,100缶製造している。
 日本ボイラ協会が日本で一番長く使われているボイラを調査したところ、同社が長浜(愛媛県大洲市)のローソク工場向けに納入したボイラで、約80年経っているという。その耐久性の素晴らしさは推して知るべしだ。